2023/05/31

Darkness

 家の奥の厠や、陽の光が届かない奥座敷などの闇を礼賛している「陰翳礼賛」

文豪、谷崎潤一郎が昭和8年に上梓した随筆だ。
それによると、西洋では闇を消す事に執着してきたが、日本では寧ろ闇を積極的に肯定することによって文化を育んできた、という。
が、皮肉な事に、この随筆が発表された年には、日本は世界で一番明るい国になったと発表されている。

僕が子供の頃の1950~60年代前半には、まだまだ街や家の中に闇が多く存在していた。
そして、その闇を消し去る事が豊かさの象徴でもあったのだ。
トイレは僅か20Wほどの裸電球であったし、街灯のない暗い路地には何か得体の知れないものが潜んでいるような気がしていたものだ。
もちろん商店などは早くに店を閉めるし、各家庭もそんなに遅くまで起きてはいないので、町が闇に包まれる時間は早く訪れる。
僕は比較的賑やかな所に住んでいたので、一晩中点いている街灯も数多くあったが、少し田舎に行けば、そこは鼻を抓まれても分からない程の漆黒の闇であった。

闇は、星が良く見えるとか、ホタルが綺麗に見えるとかの直接的なメリットの他に、感覚が深くなるという事がある。
真っ暗闇の部屋で布団にくるまっていると、五感が研ぎ澄まされる気がするのは僕だけではないはずだ。いるはずのない物の怪や幽霊の気配に身を震わせたりもする。
それは、現代人が久しく忘れている感覚なのであろう。

原発問題もあり電力不足が話題に登る事も多い昨今だが、この際「闇」を楽しんでみるのもいいのかも知れない。

ついでに少子化対策になるかも知れないしね。(笑)