ドナルド・フェイゲン、ボズ・スキャッグス、マイケル・マクドナルドの3人によるコンサート『Live 2016』
僕の70年代後半から80年代前半を彩ってくれたお三方。
どの曲にもあの頃の、あの風景が目に浮かぶ。
70年代も終わりになろうかという年の暮れ。
街がやがて迎えるバブルの熱気をそろそろ漂わせ始めていた頃だ。
僕はお目当ての女の子と飲んでいた。
彼女はBA-TSUという名のDCブランド・ショップで働く、所謂ハウスマヌカンと呼ばれたワンレグでいい匂いのする女の子だった。
1軒目は食事を兼ねた居酒屋。
2軒目は当時流行り始めていたプールバー。
そこでひとしきり球を撞いたあと、もう少し飲もうかと言う話になった。
紫煙に煙る店内の壁掛け時計はそろそろ午前0時を指そうかとしている。
表に出ると、細やかな雨。
彼女は粗い綿のロングコートを徐に脱ぐと、僕と彼女の頭からすっぽりと被せた。
コートの中の世界は彼女の甘い香りでいっぱいだ。
雨に光る夜の歩道を僕らはゆっくりと歩いた。
いつまでもこの時間が続けばいい、この甘い香りと彼女の体温を感じていたい。
そんな僕のささやかな願いも虚しく、行きつけのショットバーのネオンが目に入る。
暖房が程よく効いた店内で彼女は濡れたコートを壁にかける。
僕は自分のために「バーボン・ソーダ」
そして彼女のために「ジン・トニック」を頼み、古びたカウンターのスツールの腰掛ける。
彼女が隣にそっと座り、小さな声で「乾杯」と呟いたまさしくその時に事件は起こった。
僕がカウンターに置いていたポケットベルがピ・ピ・ピ・・・・と鳴り始めたのだ。
彼女がちらりと横目でそれを見る。
そのポケベルのディスプレイには
「3341」
その日を最後に、彼女とは一度も逢っていない。
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