信号も何も無い、田舎の四ツ辻だ。
戻るか、右に行くか左に行くか。
或いは真っ直ぐ進むのか。
そう、その道を真っ直ぐ行けば、それはシカゴへ、ニューヨークへと続いている。
結果的に彼はそのCloss Loadを真っ直ぐに歩いた。
そして、南部デルタの一地方の音楽であったブルースを都会へ運んだのだ。
ジューク・ジョイントと呼ばれる安酒場で毎晩歌い、街一番のブスを選んでは彼女の家へ転がり込む日々。
出産時の事故で妻と子を亡くし、母親の不倫の末に生まれた彼に失う物は何もなかった。
毎晩のように酒と女に爛れた日々を過ごし、そしてギターを弾き歌うことだけが彼の生きるすべだったのだ。
しかし彼はそれだけでは終わらない。
酒と女に溺れながらも、その合間に他のミュージシャンのプレイを聴くことを忘れていなかった。
そして一度聴いたプレイを、彼はその場で弾くことが出来たと言われている。
そんなロバート・ジョンソンを、チャーリー・パットン、サン・ハウス、ウィリー・ブラウンら先輩ブルースマンは驚きの思いで故郷へ迎えた。
ミシシッピーを出発だった時よりも、明らかに数ランク上に上手くなっていたのである。
そのせいで彼は悪魔と契約した、とまことしなやかに囁かれるようになる。
テクニックや感性と引換に、魂を悪魔に売ったとされたのだ。
そしてその契約場所もCloss Loadだったと言われている。
彼はその悪魔との契約どおりに27歳の若さで生涯を閉じた。
いつものように酒場の女を口説いたのだが、運悪くその女はそこの酒場の主人の妻だった。
彼は怒ったその主人に毒を盛られたのだ。
恙無く契約は実行されたのである。
その契約の中には「ブルースを世界に拡める」という項目もきっと入っていたのだろう。
結果、彼がミシシッピーから持ち出したブルースは世界を圧巻する事となるのだ。
さて、人は一生の間に何度かCross roadに立つ。
四ツ辻の真ん中に立ち、暫し進む先を考える事もあるし、通りすぎてしまってから気づく事もある。
戻るか行くか、或いは道を逸れるか。
その先にあるものは誰にも分からないのだ。
写真は我が家から南へ5分ほど歩いた所にあるCloseLoad。
僕は時々ここに立ち、往きし日々に思いを馳せる。