『宣告』 加賀乙彦著 新潮社 1979年
「あす、きみとお別れしなければならなくなりました」死刑囚楠本他家雄は、四十歳の誕生日を目前にしたある朝、所長から刑の執行宣告を受ける。最後の夜、彼は祈り、母と恋人へ手紙を書く。死を受容する平安を得て、彼は翌朝、刑場に立つ…。想像を絶する死刑囚の心理と生活を描き、死に直面した人間はいかに生きるか、人間は結局何によって生きるのかを問いかける。
1953年にあった事件「バー・メッカ殺人事件」の主犯正田昭を題材に、精神科医であり獄中医でもあった著者が書き上げた長編。
東京拘置所(当時は小菅拘置所)で実際に正田に接触していた著者ならではのリアリティさは息を飲むほど。
また、同じ拘置所に拘置されている有名な戦後の殺人者が多く登場する。
そのどれもが人間臭く、事件を報じた新聞記事から憶測される人間性とは乖離していて、非常に興味深い。
著者の加賀乙彦氏は熱心な死刑廃止論者であるが、この著書においてはさほどその姿勢を全面に出していない。
あくまで「死」と「人間」の関係を描いているが、それでも「国家による死の不条理さ」に対する疑問と問いかけはその端々に見て取れる。
物語の後半、明朝の死刑執行を宣告されてからの展開は、思わず読む者の姿勢を正してしまう程だ。
母との別れ、最後の晩餐、16年間過ごしてきた独房と遺品の整理、お別れの手紙を認めまんじりともぜず夜を過ごすのだが、明け方ふと眠ってしまう。その時に見た夢は・・・・・
今まで数多くの文学作品を読んできたが、その中でも文句なくフェイバリットな作品。
また1980年に発刊された同じ著者の「死刑囚の記録」も興味深い一冊だ。
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